叱ることと褒めること~親が育てているのは子ども?それとも大人?~
「家でどうしても子どもを怒りがちになってしまい、自信を持たせたり褒めたりということが少なくなってしまっている気がします。ちょっとしたことでも褒めることは大切だと思うのですが、なんだか難しく感じます。子ども達にどう接したらいいのか教えてほしいです。」
小学生のきょうだいを持つお母さんから、こんなご相談をいただきました。
お母さん。受付スタッフはあなたのことを、いつお会いしても朗かで、お話ししているとこちらの心まで暖かくほぐしてくれる素敵な方だと言っていますよ。上のお子さんは礼儀が大変正しく、待合室の赤ちゃんたちの面倒をよく見てくれる優しい子。下のお子さんは誰とでも仲良くでき、お行儀や言葉遣いを受付に注意されるとすぐに聞き入れる素直なお子さんだそうですね。悩みながらも子どもたちとしっかり向き合い、一緒に成長するように毎日努力されてきた結果だと思いますので、自信を持って前を向いてくださいね。
でも困ったときは、今回のようにいつでもご相談ください。なにも英語教育の話だけじゃなくていいんです。私自身の子育て経験やEFLで何千人という子供達を教育しその成長を見てきた経験から、育児についても一緒に解決策を考えていけるのなら、私としてもとても嬉しいことです。
3つの大前提
今日はまず、子どもがルールを守らなかったときの心がけとして、3つの大切な大前提を言いますね。
①「今日はお母さんの機嫌が良いから子供がルールを守らなくても許す」という日は作らない。
②子供がルールを守らないからといってイライラしない。
③イライラが募り、ついには爆発して大きな親子ゲンカを引き起こしてしまう、ということはしない。
この3つです。
難しいですね(笑)。
親にも機嫌が良い日があったり、妙にイラついてしまう日もあるでしょう。ときには「お母さんはあんたたちの家政婦じゃないのよー!」と爆発だってしたくなる日があるのもわかります。
でもポイントは1つ。
『子どもが守るべきルールから親は目を逸らさない。』
これだけです。
例えば、『学校から帰ってきたらすぐにランドセルを自分の部屋に持っていく』というのが親子のルールだとしますね。ところが子どもは帰ってくるなりランドセルをリビングにぶん投げて、テレビを見始めたとします。
「今日はなんだか許せちゃうわ!」と思うくらい機嫌が良い日でも、ルールはルールです。すぐに指摘し、部屋まで持って行かせてください。間違っても「今日だけは特別だよ」と許したり、お母さんが持って行ってあげたりしてはいけません。そうしてしまうと、その子はいつまでもそのルールを守る子にはなりません。これが先ほど挙げた大前提の①です。
特に機嫌は悪くなかったのに、子どもがランドセルをぶん投げた時点でイライラスイッチが入ることもありますね。ここで思い出すのが、大前提の2つめです。子どもの行動によって引き起こされたにしても、今は自分がイライラしているだけ。子どもが守るべきルールと、自分がイライラしていることは全くの別ものと考えます。子どもが何を言っても反応せず、「ランドセルを部屋に持って行きなさい」。このメッセージをただひたすら言い続けます。そして、子どもがそのルールを実行するまで、次のこと(テレビを見るとかおやつを食べるとか)はさせないようにします。
ヒステリックになる子がいたり、口達者で言い訳をしてくる子もいるでしょう。でもそこでお互いヒートアップして大きな親子ゲンカに発展させる必要はないのです。これが大前提の3つめ。盛大な言い合いを繰り広げていても、きっと当のランドセルはずっとリビングにぶん投げられたまま。ランドセルを部屋に持っていく、という目的は達成されません。
叱り方は難しくない
叱るときは、ポン、ポン、ポン、と要点を簡潔に言うだけ、と覚えておきましょう。
叱っているうちに色々腹が立ってきて、「いっつも何もしないで遊んでばっかり」、「お母さんはこんなに忙しいのに」、「あんたはあの時もこうだった、この時もああだった」・・・結局何が原因で怒っていたのか・・・なんてことも、結構あることかもしれません(笑)。気持ちはわかりますが、あれもこれも引き合いに出したり、何日も引きずったりしないように気をつけましょう。
叱られて興奮している子には、何を言っても響きません。その子が落ち着いているときを見計らって、次の日にでも改めて話しをする場を設けるのです。
そのときはもちろん親自身も落ち着いている状態です。親も人間なので、興奮していると子どもの心を深く傷つけることを言ってしまうときがあります。ですので、お互い落ち着いているときに「どうして叱られたかわかるかい?」「このルールはなんのためにあると思う?」「なぜお母さんがイライラしたかわかる?あなたのこういう言葉や振る舞い方は人をイヤな気分にさせることを忘れないでね」などと語りかけます。
気を付けたいのは、子どもの間違った行動を指摘する際、その子の人間性は否定しない、ということです。
例えば、「あなたの〇〇な行動は人を傷つける。△△すると優しい人になれるよ。」と指摘し教えるに留めた言い方をするのです。間違っても「〇〇するなんて、あんたは全然優しくない子ね!」という言い方はしてはいけません。「ほんっとそういうとこお父さんにそっくり!」なんて付け加えてしまうと、夫婦喧嘩というまた別の問題が勃発するので、そこはぐっと飲みこみましょう(笑)。
子どもだから腹が立つのかもしれません。自分も含め、大人もついルールを守らない時がある、ということを念頭に置いておくと、少し気持ちが楽になると思いますよ。
意味のない褒め言葉よりも感謝の言葉を
お母さんからいただいた相談は、「褒めることよりも怒ることの方が多くなってしまいがち」というものでしたが、叱ることと褒めることは別のことですので、分けて考えましょうね。
ルールはルール。上の例で言う『ランドセルをすぐに部屋まで持っていくこと』はやると決めたルールなんだから、やって当たり前なのです。褒めるべきことではありません。その年齢が守れることを守っただけで褒める、というのは控えましょうね。
ではランドセルを部屋まで持っていった子には何と言うべきか。それは、「ありがとね」というサラッとした感謝の言葉です。ルールを守った子には、褒めずに、感謝の言葉をサラッと言うに留めましょう。
ここも1つ大事なポイントです。親に感謝の言葉を言われて育つ子どもは、感謝の言葉を人に言える子になります。ごめんね、という言葉も同様です。
褒めるチャンスは他にいくらでもあります。お母さんが本当に感動したとき。例えば、子どもが誰かに優しくしてあげたときとか、ピアノを上手に弾けたときなどは目いっぱい褒めてあげましょうね。
ルールを決める際に大事なこと
ルールの決め方ですが、大事なのは『子どもにとってわかりやすいルールにすること』です。『ランドセルをすぐに部屋に持っていく』の例だと、“家に帰ったらすぐに”持っていく、のように、いつやればいいのか、具体的に何をやればいいのか、などが子どもにとってわかりやすく、またその子がルールを守ったかどうか親が確認しやすいものにするのもおススメです。
他におうちにはどのような決め事がありますか?例えば、お父さんお母さんが決めたルールで、子どもが守りたくないと言ってきたとき、どうするでしょうか。習い事を続ける・続けないなどもそうですね。
では、そうですね、ちょっと具体的に想像してみてください。
お父さんとお母さんは「上手に英会話ができるようになるまでスクールに通わせる」と決めているのに、もし子どもが「もう英語は辞めたい」と言ってきたらどうするか、考えたことはありますか?
次の選択肢から選んでみてください。
①「英語を話せるようになりたいでしょ?」と言い聞かせる。
➁「ダメ」ときっぱり断る。
私が望ましいと思うのは、➁の方です。
①のように、『英語は続ける』というルールを子どもに守ってもらうために親がああだこうだと言う。これが説得です。辞めないという選択に対して子どもに承諾を得ようとするこの行為が、子どもに「話せるようになんかなりたくないもん」という反発のチャンスを与え、どんどんエスカレートさせていきます。
ルールを守るための説得は不要です。守らせるには「ダメ」という他ありません。
まずは子どもに、「自分が何を言おうと親はびくともしない」「続けるしかない」とわからせる必要があります。
どうして続けるしかないのか。その説明が必要な事柄に対しては、適切なタイミングを見計らって、また次の日にでも「どうして英語を続けてほしいのか」という理由を事実として話しましょう。そうすれば、子どもは反論のしようもありません。
ただ親がすべての決定権を握っているのも良くないですね。親が決めるべきものと子どもが決めていいものを分け、自分で決めさせるときにはその責任を取らせるといいと思います。
このように対応をしていくことによって、子どもの考え方がだんだんと大人の考え方に近づいていきます。どのようなときも、親として常に念頭に置いておくべきことは、『親は子どもを育てているのではなく、将来の大人を育てている』という考え方です。その考え方に基づいた、ご両親が大切だと思うルールを決めれば良いのです。子どもが大人の考え方ができるようになって、将来責任感のある大人になるために必要だと思うルールを。そして、子どもがそれを守れるように、日々訓練してあげるのです。
最後に
ご両親は夫婦喧嘩をしますか?
いきなりなにを斬り込んでくるのかと思われたかもしれませんが(笑)、お父さんとお母さんのケンカの仕方やそのときに使っている言葉は、実は子どもがイライラしたり誰かとケンカをしたときの見本になっています。ケンカをしない100点満点の両親でいなさいという意味ではありませんよ。そんなの不可能でしょう?
それよりも、何か問題があったときに、親は、大人は、どう対応するのか。そこから子どもは意外と学んでいます。欠点ばかりを指摘し罵り合うのか、お互いへの感謝や尊敬の気持ちをベースに建設的な話し合いをするのか、などが子どもにとって良いお手本となるように両親共にイメージすると、意外と早く旦那が折れてくれるかもしれないし(笑)、もしかしたら夫婦喧嘩の回数がちょっと減るかもしれません!
今はまだ終わりのない旅のように感じるかもしれませんが、ぜひ賢く、そして楽しんで子育てをしてください。あっという間に成人しますよ。孫を腕に抱きながら、「あなたのパパ/ママは、とっても手の焼ける子だったのよ」と余裕を持って笑える日が、きっと来ますからね!
ライター:EFL Club 校長 Laura Macfarlane
オーストラリア出身。グリフィス大学近代アジア学部卒。日本で25年以上生活。日本語能力検定1級を取得したバイリンガルで、3姉妹の母。1996年にEFLを創立。その理念やカリキュラムの元になっているのは、自身の娘たちをバイリンガルに育てた母としての感覚、ハンディキャップを持つ次女の傍らで必死に勉強した脳の仕組みや言語訓練に関する知識、自身の日本語能力検定1級取得に至る過程から学んだこと、日本国内の様々な学校で英語指導を多数行った経験などなど。これらを通して自分が正しいと思ったことだけを、愛する生徒たちのため日々力強く実践中。