受験生になる頃のキミへ
毎年、新年度が始まって少し落ち着いた頃、3月末で退会した子たちのことを考えることがよくあります。
前職で高校の英語教員をしていた頃もよく、ちょうど6~7月頃になって、新入生や進級したばかりの子たちの顔を見ながら、卒業していった子たちの顔に重ね合わせることがありました。
1年生の今頃はよく苛立っていて、だけどちゃんと敬語が使えるようになり礼儀正しくなって卒業していったあの子は、今どんな顔で大人の仲間入りをしているのだろう、と。
高校は、長い人生の通過点ではあるけれど、たった3年で劇的に良い方向に変化する子も少なくなく、卒業する頃にはみんなそれなりに大人同士の会話に近いものができるようになっていくことを、私は15年間の経験の中で知っていました。さらに、30歳近くにもなると、職場で認められてやりがいを見出していたり、結婚してパパやママとしての顔もちゃんと見せるようになる、ということも知っていました。だから、特に理由もないくせに一生懸命突っ張って見せている新1年生のヤンキーくんの、あどけなさを隠しきれずまだ茶髪が似合っていない顔も、ある程度の余裕を持って見守れたものです。
つい数日前、当時中3だったある生徒さんに関する数年前の記録が、ふと目につきました。EFLを続ける目標を見失い、退会を考えていた生徒さんです。
彼にこのような悩んだ時期があったことは覚えていましたが、その後めきめきと力を伸ばし別人のように英語に自信を持った成長ぶりを知っていたので、あらためて記録を読み返したとき、「あれ?これは本当にあの子の記録?こんなに落ち込んでたんだった?」ととても驚きました。
メモ曰く、小さい頃から意思表示をあまりしない子だったそうですが、ここへ来て「僕はいつまでEFLを続けるの?」と言い出した、というお母さんからのご相談でした。
詳しく聞くと、レッスンがイヤなわけではない、EFLに通うことが特に負担とかでもない、だけど外国に行くかもわからないのに会話が大事と言われてもピンとこない、学校の勉強とはダイレクトに結びつかない、などなど、中学生なりに色々考えているようでした。
当時レッスンを担当していた先生からのコメントは、「グレード相当の力はきちんと付いているから、積極的に発言したり長い文を話すように自分でも気を付けていけば、もっと伸びていく。伸び悩んでいる生徒ではけっしてない。」という評価でした。しかし彼自身は、毎回のレッスン後、周りの子より自分ができていないと感じる、と落ち込んでいたのです。
結局この子はそのときは退会せず、その後2年以上通ってくれました。高校受験期間も休会せずに乗り越えて、非常にレベルの高い志望校に合格し、高校3年生になるタイミングでご退会となりました。ご退会の申請が出たときには、私達受付スタッフも「とうとうこのときが来てしまったか」という淋しさを感じましたが、EFLを卒業という前向きな気持ちで送り出すことに誇りも感じていました。
彼の変化は、あの相談のたった数か月後から見えてきました。
自分の意思を出さずお母さんの言うことを黙って聞く子だった彼は、お休みの電話連絡や振替の予約を自分で入れるようになり、レッスンは特にイヤでもなく負担でもないというぼんやりとした感想しか持っていなかった彼は、EFLのクラスメートを積極的に大事にしてお互いに切磋琢磨するようになり、外国に行くかもわからないのにと言っていた彼は、ひとりでオーストラリアに行って豊かな経験を積んでくるほどたくましくなり、学校の勉強とは結びつかないと言っていた彼は、クラスメートの誰よりもしっかりと整った文法で話すようになり、周りの子よりできないと落ち込んでいた彼は、1つ年下のクラスメートから「さすが」と言われるお兄さんになりました。
悩んでいた頃の中3の彼は、『ガンマ』というグレードでした。EFLの中学生以上のコースの中では、下から2つめのレベル。近い将来スラスラと会話をするために大事な自信と会話の基礎テクニックを定着させる上で、非常に重要な位置づけとなっているグレードです。
高校1年生になり、状況が好転し始めた頃の彼のグレードは『デルタ』。後に振り返った彼自身は、このデルタグレードあたりからどんどん楽しくなってきた、と言っていました。このグレードは、この子に限らず、上達を自覚し自信を持てるようになってくるグレードです。最終的に彼はもう1つ上の『エプシロン』グレードも修了しました。
スポーツや楽器もそうでしょうが、ある程度上達したら楽しくなってくるし、上達したら自信にもつながるし、そしたらもっと頑張ろうと思える。そうなるまでの基礎練習は、意味があるのかと疑いたくなったり、いつまで続けないといけないのかと先が見えなくなったりするものです。デルタまで行けば、これまで続けてきた意味がわかるようになるよ、あとほんの数年だよ、と私達がいくら説明し励ましても、基礎練習真っただ中の子どもたちには、残念ながら届かないこともあります。そしてちょうどその頃の子どもたちは、部活の主力選手になって忙しくなったり、高校受験という最大のイベントにもぶち当たります。
高校は義務教育ではありませんが、私が勤務してきた高校では退学する子はあまりいませんでした。だから、茶髪もピアスも赤点常習犯も、大人になった姿を想像しながら「大丈夫、3年あればあの子はじゅうぶん変われる。」というある程度の余裕を持って見守ることができました。
でもEFLには、退会という選択肢があります。もし、英会話にいまひとつ自信を持てないまま退会を考えようとしているのなら、せめてあと1年。あと1年続ければ、数か月で自分の成長を実感し始めたあの子のように、変われる可能性が子どもにはじゅうぶんあります。もし3年あれば、私のかつての生徒たちのように、劇的に変わるにはじゅうぶんな時間になるはずです。
受験勉強か将来の会話力か。
EFLの中学生・高校生がよく直面する選択肢です。
でも、いいえ、そういう選択肢の話をしているのではありません。
たしかに、学校では成績が良かったり英検や志望校に合格すれば親は安心です。
でも社会に出たら、会話ができるかどうか。それだけが評価されます。
高校は人生の通過点。卒業させたり大学に合格させて終わりなのではなく、その後の人生を前向きに過ごしていく大人の礎を築くことが最終目標です。
そして受験勉強もまた、人生の通過点です。
より彩り豊かな人生を歩むため、国際交流や国際理解を深め、国籍を問わず人脈を広げる大人になってくれること。そのお手伝いができるのなら、ぜひ受験などとの両立も乗り越え、より力を伸ばしてもらえるよう一緒に頑張らせていただきたいと思います。
悩んでいた彼が変わったきっかけは、私達が知っている以上にいくつかあったのだと思いますが、13年間のお母さんの支えが大きかったことは間違いありません。
これから、EFLの継続を悩む彼の後輩たちや保護者の方達とお話しするときには、「あのとき辞めずに続けてよかった」と言って卒業した彼の顔を重ね合わせながらお話しすることになると思います。EFLを卒業してなお、私達スタッフや自分のことを知らない後輩たちに、力を与えてくれる彼と彼のお母さんに感謝しながら。
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2019年7月スタッフブログ『EFLの中学生・高校生の英語力を、母親世代が1年間毎週観察してみました』
ライター:EFL受付Atsuko
道内の高校で英語教員として15年間勤務。時代は学校の英語の授業にオールイングリッシュの授業を求め、カリキュラムや教科書が変わり始めたころ。一方で現場にいるのは、ひたすら訳読を勉強し会話の授業を受けた経験などない世代の教員たち+思春期・反抗期真っただ中の生徒たち。この状態でオールイングリッシュの授業の成立など夢物語、できたところで日本人の英会話力はあがらない、と悶々とした日々を送った愛犬家。現在は、文法が苦手な中学生高校生のお手伝いをたまにちょっとしつつ、日本人の英会話力になにが必要か、日々勉強し発信しています。